(1)荒木永子さんと「まり」との出会い
やさしく、やわらかな風合い。愛らしい手まり。そばにあるだけで、幸せな気持ちになる。
どうして、こんなにも魅せられるのだろう。どんな人が、こんなやさしい手まりを作っているのだろう?どんな風に、作っているのだろう?
会ってみたい。話を聞いてみたい。
讃岐かがり手まりの伝統工芸士の一人で、讃岐かがり手まり保存会を受け継ぎ、讃岐かがり手まりの魅力と伝統を伝えている荒木永子さん。
少々緊張気味で訪ねたところ、人なつこく、ふんわり、やさしく、「何でも聞いてね。」「いつでも、どうぞ。」と、温かく迎えてくれました。まるで、讃岐かがり手まりのような人です。
永子さんは、讃岐かがり手まりのことをまるで我が子のように「まり」「まり」と呼びます。その響きが、やさしく、温かく、いい感じ。
永子さんと「讃岐かがり手まり」とのご縁は、焼きものに興味のあった永子さんが後に義父となる荒木計雄さんが書いた焼きものの本を買いに行ったことから始まります。そして、荒木家の跡継であった御主人と出会い、結婚され、日々ご家族と暮らす中で、自然と「讃岐かがり手まり」に深く関わることになりました。

- aps
- よろしくお願いします。
- 永子さん
- よろしくお願いします。
- aps
- 早速ですが、お父さんの第一印象は覚えていらっしゃいますか?
- 永子さん
- すごく面白かった。興味のあることを聞いたら何でも答えてくれて。余計な知識を持たずに聞いたことが良かったのでしょう。もう25年以上前のことです。
- 実は、最初に行った時には義父はおらず、義母がお茶会席の準備をしていました。少人数のお茶会席なので「入りますか?」と誘っていただいたのですが・・・。お茶も習っていなかったので遠慮しました。
- その時、お香の香りがしたんですね。後でわかったことですが、「香時計」といって、お香の燃える速さで時間がわかります。荒木家ではお客さまが来られる時間を見計らって、必ず、お香を焚いてお迎えしていました。それがお香との初めての出会いでした。
- aps
- それが縁で、「にほひ手まり」が生まれたのですか?

永子さんが発案した天然香原料を中に入れた手まり。
- 永子さん
- 永子さんが発案した天然香原料を中に入れた手まり。
- そうですねぇ。その時の出会いで作ったというよりは、荒木家では、お香は日常の暮らしの中にあるものでした。主人も仕事場でお香を焚いていましたし・・・。
- aps
- 仕事場で、ですか?
- 永子さん
- はい、竹を割って、そこに。結婚してからは、お香は身近にあるもので、自然に「にほひ手まり」につながったように思います。
- 義母は、とてもやさしい人で、いつも「まり」に埋もれて作っていました。
- 奇をてらった物は作らず、同じ模様を何個も何個も作り続けていました。特に菊模様が好きで。私が義母に教わりながら、一番最初に作った「まり」の模様が「八重菊」。義母の名前が八重子。実の母の名前がきく子。二人の母が重なる「まり」です。


- aps
- 八重菊の他には、どんな模様が?
- 永子さん
- 義母は、桜やぼけの花、あやめなど季節の模様が好きでした。日々の暮らしも、季節ごとの節目節目の行事を大事にしていて、お正月のしめ縄も手作り。私も手伝いました。節分には柊のイワシの頭をさして玄関に飾る。お盆の時は松の木を燃やして、魂をよぶ。お昼におそばを食べるときも、曲げわっぱに、ざるを敷いて、こんもりと美しく盛って、細かく刻み海苔をかけたりと・・・。日本の四季に対する美意識がとても繊細で季節を感じながら生活する感性や、一日一日を丁寧に楽しんで生きることを大切にしていました。
- aps
- 素敵なお義母さんですね。
- 永子さん
- はい、実は義母以上に、義父がそういうことを大事にする人でした。
- 父は、栗林公園にある「讃岐民芸館」の設立した一人で、15年ほど一緒に暮らした日々の暮らしの中で、民藝のものが身近に感じることができました。

荒木計雄さんは、讃岐民芸館の初代館長を務められました。
- 民藝の収集品は膨大で、陶器、磁器などの焼き物から東北地方で使う蓑や、竹もの、紙もの、漆など多種多様でした。私も、収集品のサイズを一つずつ計って、データを残したり、展示の模様替えの手伝いをしていました。とにかくすごい量でしたね。その中の一部に、玩具があり、玩具の中にも、張り子や鈴、土人形などいろいろあって、「まり」は、その中の一つでしたね。
- 義父からは価格、作家名、能書きに頼らず、自分の目でしっかり見ることを教わりました。
- 朝鮮からきた昔の高麗茶碗も、お茶の世界では、すごく高いものになっていますが、もともと朝鮮では、無名の職人がつくっていたもの。自分の美しさの価値判断をちゃんと持ちなさい。ということですね。
- aps
- これだけモノがあふれる中、「選ぶ力」を持つことは自分にとっても、社会にとっても大切なことだと思います。けれども、なかなか難しい。それを教えて貰えるなんて、羨ましいですね。
- 永子さん
- なかなか体験できない、ありがたいことですね。