四百年の歴史を持つ小豆島の醤油造り。百五十年前に建てられたもろみ蔵で造るヤマクロ醤油の再込み醤油「鶴醤」は、まろやかで、こくのある日本人で良かったなぁと思わせてくれる一品です。
その1 五代目山本康夫さん
「とうちゃん、じいちゃん、ひいじいちゃん、そのまたじいちゃんから受け継いだものを、子どもに伝えていくのが僕の仕事です。」
小豆島、寒霞渓の麓「安田」に百五十年以上年前に、木と土で建てられた「もろみ蔵」があります。
蔵の中には、直径2m30cm、高さ2mほどの杉樽が57樽も置かれ、樽も壁も柱も、百五十年かけて育てられた菌で何層にも覆われています。
この杉樽に大豆と小麦と塩と水を入れて「もろみ」を仕込む、昔ながらの製法で醤油を造り続けるヤマロク醤油の五代目、山本康夫さん。

「小さな頃から自分が住む小豆島が好きで好きで大好きで、大学は島外に出たものの、休みには必ず島に戻り、就職も島にある企業への入社を決めました。」
ところが、最初の赴任先は大阪、次の転勤では東京となってしまったのです。けれども、このことが醤油造りをしていくうえで、大切な経験となりました。
「かつては高級調味料であった醤油も、今では水よりも安く売られる時代。良いものが評価されず、品質よりも、とにかく安さを求められ、納得のいかない時に、戻って来た島で出会ったのは、わが家の醤油。『これであれば価格ではなく味で勝負できる』と。」
しかし―、
「決算書見た時は、おれ、飯くえんわ。さすがに焦りました。」
それくらい醤油づくりで生活していくのは厳しい状況になっていたのです。それでもやってこれたのは、代々受け継がれてきた山本家の醤油づくりのDNAがあったから。
小豆島で醤油づくりの近代化が進んだ時に、ヤマロク醤油では杉樽で造ることをやめませんでした。
「タンクを買うお金がなかっただけですよ」と笑いながら話す山本さんですが、「もしお金があっても、やはりそうしなかったようにも思います。」と語ってくれました。

ヤマロク醤油の顔「鶴醤」
通常、天然本醸造の醤油は一年ほどで完成しますが、うちでは、一年から二年ほどかけて仕込みます。それを再度、同じ材料と歳月をかけて造るのが再仕込み醤油「鶴醤」です。二倍の材料と約四年の歳月をかけて造った「鶴醤」は、塩角がとれ、やさしく、まろやかな辛さと深いコクがあります。
この再仕込み醤油を小豆島で始めて造ったのが三代目。一升瓶七十円か九十円の時代、千円で販売していました。高級すぎて広まらず製造中止。仕方がないので安い醤油をつくって価格競争した時代もありましたが、大手に、かなうはずもなく困窮。そんな時に、父ちゃんが、「あの再仕込み醤油を造ってみようか」と言い出して。子どもの頃に食べたあの醤油の味をどうしても忘れることができなかったんですね。
少しずつですが、ファンが増えていってくれました。でも、全国的に見ればほんの一部ですよ。杉樽で造る醤油は、全体の11%を間違いなくきっています。戦後、醤油づくりは変わり、日本人は、その味に馴れてしまった。うちのような醤油を求めてくれるのは、マニアと言っても良いぐらいのレベルです。

蔵の中で、静かに発酵が進んでいます。
世界に一つしかない蔵と樽
うちの蔵には百数十種ほどの菌が住んでいます。菌は、種類も数も蔵ごとに違います。そして醤油を造るのは僕ではなく菌なのです。百五十年かけて育てた菌と蔵は、うちにしか無いものです。この蔵と樽を息子に残してやることが僕の仕事。

杉樽にびっしりとついた菌。触るとふかふかです。
変えて良いこと、変えてはいけないことがあって、蔵と樽と菌で発酵させて醤油を造ることは、代々、受け継いできたものなので、意地でも変えてはいけないことです。今、醤油を造って生活できるのは、ご先祖さんが良い樽を造って、かたくなに守ってきてくれたから。樽で造らなくても良くなった時に、値段を下げてでもあくまでも樽で造ってつないできた。儲からんでも、たくさん造ってここまでつないで来てくれた。それを僕が変えるわけにはいかないのです。

蔵の中で樽を見つめる康夫さん。かっこいいです。
新しい杉樽を作りました。
かつては、小豆島の中でも樽づくりの音が響いていましたが、仕込み用の杉樽づくりの職人は今では島にはおらず、全国でも数人しかいないようです。ご先祖さまが残してくれた樽は、僕の孫か、ひ孫までは大丈夫のようですが、その先は、わかりません。新しい樽があれば、後二百年は先祖から受け継いできた醤油造りを行うことができます。僕も、ひいじいちゃんよりも前の先祖が作ってくれた樽で、今醤油を造っている。僕が墓場に入ったあと、「昔の五代目のじいさんが作ってくれたおかげや」と、言うてくれたら嬉しい。ごっつう先の話ですけれど。

新しい樽の前に、もろみを搾った袋を置いて菌を移しています。
二百年先を考える
醤油づくりはサイクルが長い。農作物よりも長いでしょう。再仕込みは四・五年ですから、生きてる間に、あと何回再仕込みを造れるかな?ものづくりのスパンが長いんで、考えるもんも世代をこえて考えるようになる。醤油づくり以外のことは、ちゃちゃっとしないと気がすまんけれど、醤油だけは長いスパンで考えますね。
これだけは伝えたいこと
醤油は、大豆と小麦と塩で造るということと、工場ですぐに出来るものでは無いことだけ覚えてくれたら嬉しい。それと、醤油って、四割が捨てられていると言われています。捨てることが無いよう、少しずつ大切に使ってほしい。それだけです。

以前は、いろいろ種類がありましたが、お客さまに選ばれた2種類にしぼり造っています。
その2 美味しい醤油造りに欠かせないお仕事「地獄のもろみ混ぜ」

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その3 素材の旨さを引き立てる再仕込醤油「鶴醤」

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その4 四国高松からヤマロク醤油さんへの行き方

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