久留島克彦さん55歳。33年の間、お醤油の香りが漂う草壁の町で佃煮を作り続けてきました。小豆島の佃煮は、終戦後の食料難の時代、さつま芋のツルを醤油で炊いたことが始まりと言われています。醤油は小豆島の十八番。佃煮は全国にありますが、小豆島の美味しい醤油で炊いた佃煮は人気が高まり、一時は生産量日本一を誇るまでになりました。「佃煮は、小豆島の人の暮らしを支えてきた大切な産業の一つなんだよ。」と久留島さんは語ります。
―こだわりの佃煮が生まれたお話をお聞きしました。
久留島 22歳で家業を継ぎ、バブル景気で作れば売れる時代となり、うちでも量産体制を整え、順調に佃煮を作り続けていましたが40歳の時、転機が訪れました。
バブルがはじけて、これまでのやり方では通じなくなったんですね。そこで考えたことは、“原点にもどり本来の小さな釜で手作りで作ろう。そして無添加で作ろう。”ということでした。その頃、無添加の佃煮は他でも製造されていましたが、ただ辛いだけの佃煮なっていて、“これではダメだ。美味しい無添加を作ろう!”と決心したんです。
それには、素材にこだわる必要がありました。曖昧な素材を使うと旨味が足りなくて辛さでごまかすようになります。作りたい佃煮を作るには旨味がたっぷりと凝縮された素材を探さねばなりませんでした。また、天然、国産ということにもこだわりたかったんですね。
まずは基本となるだし。昆布は日本の三代高級だし昆布と言われてい真昆布、羅臼昆布、利尻昆布中で、利尻昆布と羅臼昆布を使っています。それと、九州枕崎産の鰹節からとった鰹だしです。醤油は、もちろん小豆島産のもの。いくつかの醤油蔵の味を確かめて、私なりに調べてみたところ、一番旨味が高かったのがヤマロク醤油さんの再仕込み醤油「鶴醤」でした。国産の原料を使い3年仕込みの手間暇かけて造られた醤油です。再仕込みの醤油を使っている佃煮は少ないと思いますよ。
砂糖は鹿児島喜界島産のサトウキビからつくられる粗糖です。粗糖には、白砂糖のように精製していないのでミネラルや旨味がたっぷりと残っています。
―やさしい甘みで、キラキラと輝くまるで宝石のような砂糖です。
材料となる小魚は、是非、瀬戸内産のものを使いたかったんですね。佃煮に合う材料をいろいろ探して出会えたのが小豆島の東に位置する播磨灘で獲れた「こえび」と「ちりめん」です。コエビにもいろいろあるのですが、こちらはサクラエビ科のアキアミ属のもので瀬戸内で多く獲れるエビです。
―久留島さんのもう一つのこだわりは、直火で炊き上げること。直径1mほどの鉄の平鍋に材料を入れて約3時間の間、手で混ぜ続けて炊き上げます。実際に混ぜさせてもらったところ、相当な力がいることがわかりました。それでも直火炊きにこだわる理由は?
久留島 同じ材料でもその時によって微妙に大きさや味が違います。大きさが違えば調味料が染み込む時間が変わります。味が違うのであれば調味料の量を加減しなければなりません。その時の材料にあわせて砂糖と醤油をいれるタイミングや量、火加減を調整します。
そして味が全体に均一に馴染むように、目と手の感触で確かめながら、まんべんなく混ぜることが美味しい佃煮づくりには欠かせないことと考えています。これは一定の動きしかできない機械には出来ないことです。そして毎回、少しでも良いものを作ろうとする気持ちを持ち続けるためには、やはり手作りでないとダメなのです。
―久留島さんの佃煮の味付けは、だし、醤油、砂糖のみ。とてもシンプルです。そこに瀬戸内産の小魚が加わって、3時間かけて煮詰めあげる。まさに、日本人が大好きな「旨味」が凝縮されたような佃煮です。
久留島 日本本来の旨味を大切にした佃煮を作って、本来の味をこどもたちに伝えていきたいと思っています。そして誇りの持てるモノを作り続けていきたいですね。
久留島さんが佃煮づくりを始めると工場の中は、温かな湯気がたちあがり、日本人のDNAをくすぐる匂いで包まれます。久留島さんの“最高のこだわり”が詰まった小豆島食品さんの「こえびのしぐれ煮」「ちりめん山椒」「角切り昆布」。ぜひ一度、佃煮づくりの現場へ遊びに行ってください。炊きたての佃煮を味わえるともに、“日本人で良かったなぁ”と、しみじみ感じさせてくれることでしょう。炊きたての白いご飯に佃煮、最高です。